ミセス・サッチャーは、生前にかぎらず死後でも毀誉褒貶の激しい人だった。
しかし、
けなす側の声は常に高く、認める側の声は常に低いのが人間社会である。
それに支持する人がいれば反対する人がいるのも当然で、反対者が居ること自体その人の評価に関係ない。
また、毀誉褒貶(きよほうへん)も、何かを成し遂げたからこそ生まれる現象で、それが激しいほど、その人が成した業績は大きかったことを示している。
毀誉褒貶に無縁でいられるのは、何ごとも成さなかった人でしかない。
塩野七生著 日本人へ・百二十一「さよなら ミセス・サッチャー」
文芸春秋2013年6月号より